過去を綴る連続ものです。右上のカテゴリ一覧「nobel S」からどうぞいつ誰とどんなに激しい恋をしても、Sくんは私の心の中にいつづけた。
Sくんと過ごした時間ほど楽しい時間をくれた人はいなかった。
だけどね、現れるものなんだね。
夫とは、お互いに転げまわって笑って息ができなかったり、
腹筋が筋肉痛になる事があるほど楽しい時間を過ごせるのだ。
しかもSくんとは違って、お互いにとてもリラックスできる相手。
私を不安に陥れるどころか、私の不安を拭い去ってくれる人。
かけがえの無い存在に出会い、私は本当に幸せな日々を過ごしていた。
しかし、こういうのは一種の病気というのだろうか?
私は心から夫を愛していながら、幾度か浮気をしてきている。
夫への不満と、浮気相手への気持ちでやるせなかったある夜、
私はなんだか無性にSくんと話したくなって、
ちょっと散歩してくると夫に告げ、ほぼ10年ぶりに電話してみた。
ケータイのコール音は、なんと、
Sくんが自分でふきこんだ自作一人コントだった。
私は、そのコント内容だけでなく、いかにも彼らしい行為に爆笑。
程なくしてSくんが電話に出た。
彼はあまりに久しぶりの私からの着信に驚いている様子だったが、
私はコール音で聞かされたコントが面白くてひたすら爆笑していた。
しょっぱながそんなだったから、ほぼ10年ぶりだというのに、
私達はブランクを全く感じさせない調子でスムーズに話しはじめた。
先ずはお互いひたすら懐かしいねと思い出話。
そして、もう30をとうに過ぎているのだから色々あるだろうと、
今の彼の状況について話を切り出すと、様子は一変してしまった。
彼は結婚はおろか、恋人もおらず、大宮で一人暮らしのままだった。
しかも「俺なんか」と吐き捨てるような口ぶりで自嘲的に繰り返した。
そして当たり前のように、アルコールへの依存は進んでいた。
本来のシャイで優しく不器用で人見知りな彼を理解してくれる人は
まだ現れていなかったのだった。
いや、理解した人はいたのかもしれないが、
恐らく過去と同様に彼の方がリラックスできずに心を閉ざしたか、
彼の本心と虚像に惑わされ、気まぐれな言動に振り回され、
彼とは一緒にいられないと判断して去ったのだろう。
あんなに面白くて魅力的でイイ奴なのに、なんで!?
と、私は悲しくて仕方なくて泣いた。
彼がリラックスできるタイプの相手からは彼は理解されず、
彼を理解してくれるタイプの相手とは彼がリラックスできない。
あるいは、ひょっとしたら、彼は余りにシャイな故に、
理解される事をすら恥ずかしがって拒否してしまうのかもしれない。
いずれにせよ、こんな不幸があるだろうか?
私は夫を愛しながらも、Sくんの事が気になって仕方がない。
一緒に過ごした場所、一緒に飲んだお酒、あの2曲・・・
そうした数々を見聞きする度に思い出し、彼の不遇に胸が痛み、
あの頃の不可思議で奇妙で儚い関係を思い出す。
ねえ、いい加減、楽に、幸せになってよ!!
相変わらず照れ隠しのウソをついて振り回してるんでしょ?
一目置かれて頼られて無理ばかりして苦しんでるんでしょ?
人一倍寂しがり屋のくせにいい年して誰にも心開けずにいるんでしょ?
ケータイのコール音を面白くしてるのはかけてきて欲しいからでしょ?
あんたはどこまで不器用でバカなのよ!?
でもね、あんたみたいな奴、そうそういないのよ?
私とじゃダメなんだからさ、幸せを祈るしかないじゃない?
もうどうしていいか分からないよ。だって私とあんたはさ、、
近くにいたらいつも互いを求めて恋してしまうけど
絶対に「恋人」にはなれない「コンピ」なんだもの・・・
やっぱりSくんは私にとって特別でスペシャルな存在。
私の心の中のレベルS。
それはSくん、あなただけ。
人生はつづく。。